高浜愛子女流3級の終わらない挑戦 あるいはカフェデートにおける敗着
カナルカフェから見えるお濠に泳ぐ鯉たちは、
お盆休みも関係ないようにせっせと餌を食べていて、
子供ずれのお母さんたちは楽しげにボートに乗っていた午後。
僕は、合コンで知り合った女性の過去から未来に渡る鮮明な
キャリア設計を聞きながら、完全に気圧されてしまっていた。
想像以上に具体的かつ野心的なキャリア設計を超えた人生設計は、
ある種の執念のようなものを感じさせられたし、
何よりも力強い美しさのようなものに圧倒させられた。
こんな話題になってしまったら、色っぽい話題に戻ることは
諦めて、鯉に餌でもやって大人しく帰るのが定石。
今回の敗着となった質問、
「いくつくらいのときがターニングポイントだった?」
男にも女にも大体30歳前後が公私ともに分岐点となるような
イベントがあって、そこでどんな風に現実に折り合いをつけつつ、
自身の理想をアップデートするのかということに、
僕はすごく興味がある。敗着になれど悔いなし。
『いささか私的すぎる取材後記』でも30歳の女流棋士の分岐点を
書いていらっしゃって、いつも以上に胸が熱くなる。
いつもは男性棋士に関する話題が中心で、現代の棋士を語ることは
すなわち「羽生善治」を語ることになるので、
当然、「いささか~」も羽生善治を中心とした銀河系がテーマの中心だ。
ただ、本エッセイはシリーズ上おそらく初めて羽生善治が不在だ。
女流棋士引退を賭けた高浜愛子女流3級の闘いと
それを巡る女流棋界を書いた本エッセイは羽生善治不在を感じさせない、
いつも以上の熱量と愛情を感じさせる名文です。
以前、高浜愛子女流3級が指導対局をしていらっしゃったのを
少しだけ観させてもらう機会があったが、感想戦の際に
とても丁寧にフィードバックをしていらっしゃるのが印象的だった。
本エッセイに掲載されている写真は、その時の柔らかな印象と異なり、
鋭くて、綺麗で、どきっとする。
これは感想戦のときの写真のようですが、まだまだ目は死んでない。
現実的には相当厳しい、いわゆるひとつのがけっぷち。
諦めきれずにようやく得た仮資格失効まで残り半年。
「信念を持って頑張る」という闘いざまは、さぞや美しいことだろう。
- 作者: 北野新太
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