リンゴォblog

男の世界へようこそ

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』レビュー あるいはハードボイルド・ワンダーランド

こんなにも可燃性の高い映画は久しぶりではないだろうか。

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』は、
カルト的な人気を誇る『進撃の巨人』を原作とし、
もはやそれだけで原作ファンからは酷評されることが
目に見えている。
さらに、『奇跡のコラボレーション』としか形容しがたい
アニメ版の主題歌『紅蓮の弓矢』『自由の翼』に対して、
映画版の主題歌は何かとお騒がせな"SEKAI NO OWARI"
極めつけは「超映画批評」での酷評に対して、樋口監督が
燃料投下してしまい、作品そのものよりもその炎上っぷりが
話題になってしまっている。

ここまで燃えていれば、観ないわけにはいかないだろうと、
映画館に行ってきましたが、僕の感想は、
『超いい!』
です

以下、ネタバレを含みますがその理由を3点。

- ・独自の世界観の構築に成功

~「映画化」は「原作の再現」ではない~

漫画を原作とする映画の宿命と言えばその通りですが、
必ずあるのが「原作と全然違う!!原作が台無しだ!」という批判。
それはもちろんある面においては真理で、
映画版『進撃の巨人』も原作の持つ表現しがたいほどの
圧倒的な絶望感とか理不尽さとかを描けているかと言えば、
正直言って厳しい。巨人の怖さ・不気味さを実写映画で表現することの
限界があるような気がした。

もし、「原作の再現」を第一義に掲げて映画化されたものであれば、
映画版『進撃の巨人』は良い映画ではないだろう。

一方、僕が最も感動したのが、カルト的な人気を誇る原作を下敷きに
独自の世界観を構築せんとし、それが成功している点。

原作と映画版の違いは、「エレンの動機」に尽きる。
お母ちゃんを目の前で殺されて、「駆逐してやる!」と
復讐を誓う原作に対して、
映画版では幼馴染にして初恋の人ミカサを奪われたことで
復讐を誓う。

しかし、本当はミカサは生きていて、わけわかんねぇリンゴおっさんに
奪われてしまっていたことを知った絶望。
「巨人に復讐しても仕方ねぇじゃん!」という理不尽さ。

男がおっさんになるには簡単だ。
理不尽さと適当に折り合いをつければいい。

少年が男になるためには、どうやって闘えばいいかもわからない、
圧倒的な理不尽さにそれでも闘う覚悟を決めなければいけない。

いわゆるひとつの「逃げちゃダメだ」

少年エレンが、どうやって男になるのかは後篇まで見ないと
わからないが、少なくとも僕はそれをものすごく楽しみにしていて、
その一点を以て、映画版『進撃の巨人(全編)』は素晴らしい映画だ。

- ・キャスティングと演技の妙

~翔んでおいき ヴォラーレ・ヴィーア~

残酷な世界を描くには、そこに美しいものを放り込めばよい。
映画版「進撃の巨人」でも中心となるエレン、ミカサ、アルミンは、
それぞれ、三浦春馬水原希子本郷奏多

正直、単体で見ると全然好きじゃない。ちょっと嫌いまである。
それなのに本作では彼らの不自然な演技も含めて、
壁に覆われ、巨人に囲まれている残酷な世界を見事に表現している。
この3人の美しさが、ここまで世界観にフィットして、
さらに世界観を強化するなんて、誰も想像できなかったのではないか。

更に演劇風に迫ってくる長谷川博己石原さとみも絶妙。
どちらもマス向けキャスティングだと思っていた自分の浅はかさ。

長谷川博己演じるシキシマがエレンに
「飛びな」的なことを言うシーンは絶品。
僕の中での「ベスト オブ 飛びな」が、
ナランチャの「ボラーレ・ヴィーア」から更新されてしまったよ
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更に石原さとみは、彼女の女性的な魅力は一切出されず、
前述の3人に美しさ担当を任せ、自分は巨人に対して全然違う観点、
好奇心から対峙する特殊な役割を見事に果たしていた。

- ・「日本発世界」への確信犯的演出

~世界よ、これが映画だ~

本作では先行するジャパニーズ・コンテンツを想起させる演出が
随所に現れる。
赤ん坊の巨人は、『千と千尋の神隠し』に出てきた赤ちゃんに
そっくりだし、巨人の腹を引きちぎってエレンが出てくるシーンは、
エヴァンゲリオン初号機がATフィールドを引きちぎるシーンに
僕には見えた。(桃ちゃん桃からぱっかーんとも聞こえた)

日本での公開を待たず、世界最速でLAにてワールドプレミアを行い、
50か国以上の国々への配給も決定している本作。
そんな中で、確信犯的にジャパニーズ・コンテンツを下敷きに演出するという、
その野心に僕はうっとりとしてしまった。

ハヤオ・ミヤザキが去り、アンノが壊れてしまった今、
これからの正統なるジャパニーズ・コンテンツは俺が背負うぜ、
という野心と覚悟が、
まるで巨人に立ち向かうエレンたちにオーバーラップするようで、
うっかり涙しそうになった。

極めつけは、あまりにも挑発的なマーベル風のエンディング。
「世界よ、これが映画だ」と叫んでいるように僕には聞こえた。



本作の監督である樋口真嗣さんは映画の企画書の冒頭で
「映画は常に観客にとって力強い前進を示さなければならない」
と若きに日に書いたという。

どうやって少年が男になっていくのか
この独自の主題を絶品のキャスティングと正統たらんとする演出で
それをどんな風に描くのか。

今から後篇が楽しみです。